聞き上手になる方法

「分かるよ」
 話の切れ目でそう言い、適度に相槌をうって、相手を肯定することしか言わなければ、相手は満足する。
 そんな話の聞き方をしていたら、私の側にいつの間にか人が集まるようになった。それらは私に悩みを打ち明け、満足した表情で帰っていく。私は話の半分、いや4分の1も聞いちゃいないのに。
 今日もある女の子の話を私は聞いている、ふりをしている。私の耳のイヤホンに彼女は気付いていないようだ。
 ふと微笑んでいる彼女と目が合った。どうやら話は終わったらしい。その笑顔が素敵だよ、と言っておいた。
 一緒に帰ろう、という彼女の提案に、私は従うことにした。彼女は電車に乗って4番目の駅、私は7番目の駅で降りる。
 電車のホームに着くと、たった今電車が発車したばかりなのだろうか、人はまばらだった。私たちは電車のドアが来るであろう場所の、一番先頭に並んだ。私が前で、彼女はその後ろだ。
 肩を叩かれて振り向くと、おもむろに彼女が私の両手をつかんだ。私と彼女はそれぞれ右手と左手を繋いで、向き合うような体制になる。彼女は私に満面の笑みを向ける。私は彼女に微笑み返した。その時、彼女はそのままの表情で私の両手を振り払い、その手で私の胸を強く押した。
 どんっという衝撃がして、私は背中から線路に落ちていった。綺麗な弧を描く彼女の唇が微かに開いた。

――あなたなら、分かってくれるよね……?

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